商業都市 [2]
Last Update:2004.12.24
数日後。
毎日のように喧噪が飛び交うラーディスの街をカインとルーンが歩いていると、広場のあたりに人だかりが出来ているのを見た。

「なんだろ、あんな所に人だかりが出来るようなものってあったっけ?」
「さぁな。誰かが露店でも開いてるんだろ?」

もとより厄介事が嫌いなカインは素っ気なく答え、さっさとその場を離れようとした。
ちょうどその時、人だかりから聞こえた女性の悲鳴のような声。そして野次馬のざわめき。
それは厄介事が嫌いなカインでさえも思わず足を止めてしまうほどのものだった。

「ガラの悪い男が、か弱い女性につるんでる、っとこかしら。 どうするつもり?」
「・・・取り敢えず、様子を見るか。」

そういうと、カインは足早に人だかりの元へと向かっていった。


人だかりの中央では、ルーンの予想通り、ガラの悪そうな冒険者らしい男が2人、同じく冒険者のような出で立ちの女性につるんでいた。
何を言っているのか、そして原因は何なのかは野次馬の声で聞き取りにくく分からないが、どうも一触即発のような状態らしい。
3人を取り巻くこの空気が爆発したのは、カインが人混みをかき分けて進み、ちょうど最前列に辿り着いたときだった。

「テメェ、いい加減にしねぇと斬り殺すぞ!」

男の片割れが腰にかけた剣に手を掛け、抜く。もう一人もそれに習う。

「あら、力で訴えるわけ?自分の非を認めるのね?」

女性も、腰にかけた剣を抜く。刀身が太陽の光を受けて輝いて見える。

「もう我慢できねぇ!ぶった斬ってやる!」

先に剣を抜いた男が、女に向かって走り出した。女も負けじと男に向かって走り出す。
互いが持つ武器を、ほぼ同タイミングに振り下ろす。誰もがその光景に目を見張った。


刹那。


カインが、飛んだ。
瞬間的に自分もまたラグナロクを抜き、二人の間に割って入ったのである。
振り下ろされた二つの武器は、ラグナロクに弾かれる形になった。
女性の表情が一瞬変わる。カインはそれを見逃さなかった。

「何があって言い争いになったのは知らないが・・・」

一瞬の出来事に何が起こったのか事態を飲み込めない2人に、カインは続ける。

「ここは街中だ。斬り合いをするのは勝手だが、他の人のことも考えろ。」

カインは2人の武器を受け止めていたラグナロクを鞘に戻し、人混みをかき分けて歩いていった。
男達の方は「ったく、命拾いしたな。」と吐き捨て、どこかへ行ってしまった。

「へぇ・・・」

後に残った女性は微笑をし、カインの歩いていった方へと歩き出した。
当事者が居なくなったことで野次馬も自然と散り、広場は元の喧噪が飛び交うようになった。


「お〜い!」

後方から聞こえる、聞き覚えのある声。
その声の主は、恐らくさっきの騒動の片割れの女性であることは直ぐに分かった。
しかしカインは気にせず歩き続ける。それが自分に向けられたものかどうかも分からないからだ。

「あー、ち、ちょっと待ってよぉ!」

そんなカインの行動を見た女性は思わず叫んだ。
仕方なく、カインは足を止めて改めて後ろを向き、走ってくる女性を待った。

「はぁ、はぁ… 足…速すぎだよ…」

女性は肩で息をしながら切れ切れに喋る。

「・・・で、いったい何の用で俺を追いかけてきたんだ?」
「礼を…しようと…思って… ふぅ。」
「礼?俺は喧嘩を止めたんじゃなくて他人への被害が出るのを防いだだけだが。」
「いや、あれはホントに些細なことだったんだけど、引くに引けなくなっちゃって、ね。
他人への被害を防ぐってことは喧嘩を止めることなんだし、周りにも被害が出なかったし。」
「まぁ、そうだが・・・」
「だからお礼を言いに来たの。ありがとう、って。」
「・・・あぁ。」

カインは驚いた。
過去このような形で何回か喧嘩を止めてきたことはあっても礼を言われるようなことはなかった。
それに、カインは自分でも礼を言われるのがあまり自分の性格に合わないのを知っている。
だから驚いたのである。こういう義理堅い人もいるものなんだなぁと。

「じゃあ、私はもう行くね。」

そういうと、女性は元来た道を戻り始めた。
だが、途中で「あっ」と言う声の後にカインの方へと振り返った。

「そうだ。君、名前は?」

女性がさりげなく聞く。

「カイン。カイン=ルシリアだ。」
「私はセシル。セシル=ロックバードよ。んじゃあね!」

そう言うと、セシルは人混みの中に消えていった。

「いい人そうだったね。」

ルーンはそういってカインを見た。
カインの顔には、何か難しい事を考えているときの不機嫌そうな表情が浮かんでいた。

「・・・どうしたの?」
「気になることがある。ルーン、帰ろうか。」
「・・・うん、わかった。」

カインは足早に、グラムの店へと戻りだした。


「ソルジャーズ・ギルドのメンバー情報?」

店に戻るなりカインから発せられた言葉にグラムは仰天した。

「ここもギルドだからあるにはにあるが・・・、古いぞ?」
「いいんだ、少し気になることがあるだけだから。」
「何があったのかは知らないが・・・。 っと、あったあった。」

グラムは資料の山からそれを探し出し、中身を確認する。

「あー・・・ 8年前の奴だ。望みのものがあればいいな。」

そういって、グラムはカインに資料を投げ渡す。カインはそれを受け取ると

「ありがとう。」

と言って手近な椅子に座ると、直ぐに資料に目を通し始める。
(何か一つ気になることがあると、周りが見えなくなるのは相変わらずか。)
そんなカインの様子を見て、グラムは苦笑した。その一方で、
(しかし、いくら使わないとはいえ、8年前の情報ってのはいただけないよなぁ。)
とも思ったグラムは、頭をポリポリとかきながら店の奥へと歩いていった。



夜。
(俺はやっぱり動いてたほうが考え事はしやすいよな。)
グラムに「外で修行でもしてくる」と言って店を後にしたカインは、夜になっても興奮なりやまぬラーディスの街を抜け、郊外の広い草原に出た。
魔力の質を高めて素振りしながら魔法を構築しては元に戻すという実戦を考えたカインなりの訓練をしながら、頭の中ではまだ考え事をしていた。
(冒険者が喧嘩を止められたぐらいで、あんなに驚くはずがないよな)
カインは、喧嘩に割って入ったときのセシルの表情の歪みを見逃していない。
それは、ただ「驚いた」だけの表情の変化でないことは明白だったからだ。
(そして、俺を息が切れるまで走っても尚追いかけてきた・・・)
カイン自身はそこまで速い足取りで歩いてはいない。ということはセシルが何らかの考え事をしていたという裏付けにはならないか。
そしてただのお礼で息が切れるまで探し続けるなんて、カインには考えられなかった。
さらに、次いつ会うかも分からないのに名前まで聞いている。これが一番彼にとって奇怪だった。
(まさか、セシルは―――)
そう考えたとき、カインは近くの樹に向かって構築していた魔力を放った。
樹は大きく揺れたが折れてはいない。一種の魔法衝撃である。
その衝撃に驚いて大きく揺れた木から飛び降りる、一つの影。

「うひゃー、お見通しというわけですか。」
「いくら気配を絶っても俺は魔力で人を感知できる。」
「さすが、ハンターと長い間戦ってきただけはありますね・・・」

影の主は青年のようだった。背中には槍を背負っている。
これで良く樹に跳べるな、とカインは思ったが直ぐにその考えを振り払った。

「で、俺に何の用だ?ハンターギルドの者が。」
「何でもお見通しですか、流石にそこまでいくと恐ろしいですね。」

カインは無言で剣先を向ける。その動作に強い殺気を感じた青年は両手を上げる。

「いや、戦うつもりで来たのではありませんよ。
ラグナロクを貴方から奪おうとしても、彼女の力で弾かれるのがオチですからね」

彼女とはルーンを指しているのだろう。
グラム以外には誰にも言っていないルーンがいればラグナロクは奪えないということ。
それを知っているということはかなりの情報収集の達人であろう。
カインは若干動揺したが、平静を装って聞いた。

「・・・じゃあ、何が目的だ?」
「君自身に興味があったのと・・・」

青年は、一度言葉を切る。

「君に、忠告に来たのです。」
「・・・忠告、だと?」

青年の意図が全くつかめない。
カインは自分が無意識のうちに剣を下ろし、ひたすら思案を巡っていることに気づかないほど動揺していた。それほど青年の目的は奇怪であり、不明だった。

「えぇ。この大陸で、『何か』が起ころうとしています。
その『何か』は流石に現段階では僕も詳しいことは分かりませんが・・・」

再び、言葉を切る。

「その事件には、君の持つ双剣ラグナロク。
―――そして、君自身の過去にも、関係しています。」

青年は言葉を切った。
いつものカインなら「何を馬鹿げたことを」と一笑に附したところだが、今回ばかりはそう思わなかった。
青年の表情、敵意のなさ、そして何よりそれが真実であるかのような『予感』がしたからである。

「俺自身の―――過去、か。
で、おまえはそれを手みやげに、俺にそっちに入れというのか?」

これは青年の真意を確かめるためにある。
もし今のことが事実なら恐らく青年は否定するはず、とカインは思っている。

「いえ、まさか敵対してるところに入ってもらうわけにはいきませんよ。
それに、ギルド内は情報収集の方法が限られますしね。」

果たして、カインの予想通りであった。
カイン自身も短時間で与えられた情報を繋ぎ合わして大体の推論を終えている。
そのカインの様子の変化を見て取った青年は、続ける。

「否応なしに君はこの『何か』に関わらざるをえない時期が来るでしょう。その時、君がどう動くかは君自身で決めることです。
では、僕はこれで・・・
僕の名前はエレク=ローランド。覚えていてくれたら光栄です。」

そういうと、彼は静かにその場を去っていった。

「歴史のひずみ・・・か。」

エレクが去ってから、ぽつり、とカインは言う。
(真偽はグラムと相談して、情報を集めてみないとわかんねぇよな)
カインもまた、グラムにこのことを報告するために、戻っていった。

あとがき
後半がかなり無理のある表現と展開になって(´・ω・`)ションボリス
相変わらず表現技能の乏しさには涙ものです。

そろそろストーリーの根幹、流れが見え始める頃。
エレクは一体何者なのか。カインの過去とは。そして何が起ころうとしているのか―――
今回の部分は色々なところに派生していくので、それだけ謎が多く残ると思います。
でも、その謎はストーリーが進むにつれ、少しずつ明らかになっていくので(当然か−−;)ゆっくりと構えていましょう。
憐崎も期待に添えるよう頑張ります。私なりに。

・・・取り敢えず表現力をどうにかしたいと思う今日この頃。


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