商業都市 [1]
Last Update:2004.12.4
青く広がる草原、商人や冒険者が通る街道、ところどころに点在する大木。
空を見上げれば雲が流れ、その雲の間からは太陽の光がそそぎこむ。一見すれば平和でのどかな風景である。


その草原の一角、街道の外れ。
冒険者の姿をした一人の少年―――近くに妖精を伴っている―――を、戦士と思われる男が数人、取り囲んでいる。
だが、屈強な男達に囲まれても少年は全く動じず、男達を睨み付けるような表情をしている。
顔色一つ変えず、何も言おうとしない少年の態度にたまりかねた男の一人が口を開く。

「改めて言うけどよ、ぶつかって置いて礼もなしか?兄ちゃんよぉ。」

少年に問いかけるが、それでも少年は何も言おうとはせず、表情も変えない。
そんな少年に、先程とは別の男が

「かたくなに黙り込んでいても解決する問題でもないんだぜ?」

と言うのだが、以前少年は沈黙を守り、口を開こうとはしない。

「・・・はぁ。全く、魔剣士って奴は自分勝手なのが多くてかなわんぜ。」

また別の男がやれやれ、と言った様子でぼそりと呟く。
それを聞いた少年の表情が―――ほんの一瞬ではあるが―――変わった。
少年は一瞬大きく目を見開いたが、やがて「仕方ないな」という仕草を見せて

「わかった、俺が悪かったよ。じゃあな。」

と言って、男達の間を通り、街道へ向かって歩いていく。
厄介事はごめんだ―――そう思い、男達との距離を離すために足を早めようとした、刹那。


(!!)

後方から感じた殺気に、少年は反射的に右へ跳ぶ。
見ると、つい先程まで立っていた地面は『何か』によってえぐられていた。

「まだ話は終わってないぜ、兄ちゃん。 ・・・いや、伝説の魔剣『ラグナロク』の所持者、カイン=ルシリアさんよ。」

先程までカインと呼ばれた少年を囲んでいた男達は既に剣を抜いている。
カインは逃げられないことを悟り、舌打ちした。

「やっぱり魔狩人魔剣士(ハンター)ハンター 魔剣士(ハンター) 、か・・・」
「お見通し、ってわけか。流石だな。」
「伊達に100年は生きてないんでね。」

言いながら、カインは腰につけていた2本の剣を抜き、構える。
その動作を見るやいなや、男達は一斉にカインに襲いかかった。


男達の力任せの攻撃を、カインは流れるように弾き返していく。
振り下ろされてくる剣や斧などの武器を一方の剣で弾き、もう一方の剣で攻撃を繰り出す。
しかし、なにぶん男達の数が多く、2本目の剣での攻撃をなかなか通すことが出来ない。
絶えず流れるように動くことで攻撃をかわしているが、やはり人数の都合、いつ捕らえられても不思議ではない。
攻撃を弾き返す中、不意に後ろから先程と同じ強烈な殺気、そして魔力を感じ取った。

「カイン、後ろ!」

傍らにいた妖精が叫ぶ。その声を聞いたカインは反射的に横へ跳ぶ。
一拍置いて、強烈な衝撃波がカインがさっきまで立っていた地面を地表を巻き込みながら突き進んでいく。
先程の殺気と、えぐられた地面もこの衝撃波のものだろう、と彼は悟った。
衝撃波の飛んできた方向を向くと、先程のやりとりで3番目に発言をした男が、身の丈ほどの大剣を構えている。

「魔法の刻印、風の魔力・・・ ふうん、あなたも魔剣士なのね。」

妖精は不満そうに男を睨む。その様子を見て、男は豪快に笑い出した。

「世の中には剣だけで魔剣士稼業やってるってバケモンもいるが・・・
基本的には魔には魔をだからな。魔法剣がないとこの稼業、とてもじゃないがやってられんと思うがね。」
「まぁ、事実その通りではあるけどな。」

カインは再度剣を構え、衝撃によって吹っ飛ばされた男達の方向へと向き直る。
元からこういう戦いをしてきているのだろう、男達にはさほどダメージはなさそうだった。
再度集団で襲いかかってくる男達の攻撃を双剣で弾きながら、飛んでくる衝撃波をかわしていく。
その都度男達は吹っ飛ぶのだが、見事な受け身で直ぐに立ち直り、再び攻撃をしかけてくる。
かなり荒っぽい戦闘だが、チームワークはかなりのものであろう。

「どうしたどうしたぁ!まさか魔法が使えないんじゃねぇだろうなぁ!」

なおも飛んでくる衝撃波を跳んでかわし、カインは乱れた息を整えながら、男達に向き直る。

「魔法を使えないわけじゃない・・・」

カインは構え直した剣に魔力を込めていく。
再び、男達がカインに向かって走り出す。しかし、カインは動こうとはしない。
魔力を帯び始めた双剣は、数秒もしないうちに強い光を放ち始める―――

「俺は『見えない魔法』を使ってただけだ。」

その言葉と共に、剣に凝縮された魔力は、呪文がスイッチとなり、カインの双剣を中心に『魔力の刃』が形成されていく。
危険を悟った魔剣士は、カインに向かって衝撃波を放った。 ―――だが、遅かった。


『斬魔法―――ダブル・クラッチ』


静かに、魔術の完成を告げるカインの声。
完全に魔力の刃が形成された双剣・ラグナロクを男の集団に向かって振る。 ―――刹那。
魔力の刃は振り下ろされたラグナロクから離れ、衝撃波―――と言うよりは飛ぶ斬撃と形容した方が正しいかも知れない―――となって、男達へ向かって突き進む。


まさに『一瞬』であった。
2発の衝撃波は一点に群がっていた男達を吹き飛ばし、放たれた魔剣士の衝撃波をいとも簡単に消し去り、そしてその魔剣士をも吹き飛ばす。
カインが故意に直撃を避けて放ったために大きな怪我を負った者こそいなかったが、その代わりに地面に強く打ち付けられる形になった。
痛みにうめいている男達を一瞥すると、カインは街道の方に歩き出した。



「カイン、いつの間にダブル・クラッチを私無しで打てるようになったの?」
街道を行く道すがら、カインのそばにいる妖精が不思議そうな顔を装って聞く。
名をルーンと言うこの妖精は、双剣ラグナロクに込められた強大な魔力が本体本体ラグナロク本体から分離した存在である。
魔力魔力ルーン魔力が外に存在すれば本体本体ラグナロク 本体が持つ魔力は微量しかない。だから多くの魔力を要す斬撃魔法、ダブルクラッチは使えないはずだが―――

「何を今更・・・」

カインは苦笑して、続ける。

「どれだけ長い間あーいう奴らと戦ってきてると思ってんだ。俺自身の魔力も強くなるさ。」
「・・・まぁ、ね。」

ルーンは、ラグナロクの刀身を見つめながら静かに話すカインの顔に、どこか悲しい表情を見た気がした―――



道中は少なかった人も、街が近づくにつれて少しずつ増え、その街独特の喧噪が聞こえるようになる。

「商業都市ラーディス、か。久しぶりだな。」

ふと、カインが口を開く。

「そうね、10年ぶりだっけ? といっても、街の風景はあまり変わってないみたいだけど。」

ルーンは周りを見渡す。流石商業都市と呼ばれるだけはあり、街の至る所に店が並び、人の往来が激しい街である。
近くには貿易港もあるため、船乗りや漁師であろう人々もよく見かける。
中央大陸の都市では王都に次ぐ大きさであり、その王都も目と鼻の先にあるために交通の便が良く、さらに王都に流れる物は全てここを中継している。
言い換えれば東西南北全ての大陸から物が集まるこの都市は物の流通が非常に良く、物価も比較的安いために自然と多くの人が集まるようになった。
今では中央大陸だけでなく、大陸全土を見てもこれだけの規模の商業都市はない。
それに、それだけの経済力をこの街は持っている。とにかく物凄い街なのである。

カインはしばらく大通りを歩くと、不意に路地裏に入った。
大通りとは対照的に人が少なく、細い道を少し歩いてから、カインはある店の中に入った。

通りから離れた場所にあるためか、店の中に人影は余りない。
その人影も普通の街人ではなく、いずれも屈強な戦士のようで、各々が剣であったり、槍であったり、何らかの武器を持っている。

「よっ、マスター。お邪魔するよ。」

ドアを閉めてから、カインは店のマスターに声を掛ける。

「カインか、久しぶりだな。10年ぶりくらいか?」
「あぁ、やっと大陸西部の旅が終わったんでね。中央に戻ってきた。」

マスターが椅子に座るよう促す。カインもそれに従い、マスターの前に座る。

[おっと、人払いが必要か?]
[いや、必要ないさ。俺がコイツの所持者って事はもう殆どの冒険者に知られてるだろ?]

小さな声で話しながら、カインはルーンを指さす。
ルーンは「コイツって何さ!!」と抗議するが、カインは無視した。

「そういうわけだから、問題ないだろ。それに・・・」

一度言葉を切って、続ける。

「もし誰かが牙をむいても、その牙を斬り捨てればいいだけだろ?」
「言うねぇ。流石に白兵戦型は違うな。」

一瞬放出された殺気にも、マスターはたじろかない。
―――最も、周囲はそうではなかったようだが。



「・・・で、魔剣士管理組織の動きはどうなってる?」

マスターから酒をもらい(といっても身体自体は17歳なのであまり強い酒や多くの量は飲めないのだが)ある程度世間話をした後でカインは本題を切り出した。

「あっちはあっちで動きを見せ始めてる。まだ見つけられてない伝説の7武器を見つけるためのチームが結成されてる。
それと、これからお前への攻撃も激しくなると思うぞ。奴ら最近伝説の7武器に御執心だからな。」
「それは大丈夫だ。ルーンの意志がある限りはラグナロクを俺以外の人物が持つなんて事は出来ないからな。」
「だと思うよ。俺も体験者だしな。」

マスターは苦笑した。カインもつられて苦笑いする。
暫く笑った後で、カインは表情を戻した。

「でも、暫くここに留まって奴らの動きを観察した方が良さそうだな。」
「動きを把握するならその方が良いと思うぜ。普通の街にはギルドがないからそういった情報も入りづらいだろ?
なぁに、お前が戻ってきたときのために部屋は残してあるし、掃除もしてある。」
「悪いな、グラム。またしばらく世話になる。」
「おうよ、何日と言わずゆっくりしていきな。」

グラムの言葉に、カインはにっこりと微笑む。

「荷物を置いてくる。」

カインは立ち上がり、荷物を持って店の奥へと消えた。その顔はどこか幸せそうに、ルーンには見えた。
ルーンは長い間カインと一緒にいるが、普段はあまりカインの笑顔を見たことがない。
しかし、グラムの店にいるときのカインは、良く笑い、そして幸せそうな表情を見せる。
長い間カインと一緒にいるルーンは、この笑顔の理由に何となくではあるが気づいていた。



「きっと、ここがカインの帰るべき『家』なのね」と――――――




あとがき
本編開始です。いきなり戦闘シーンです。
むぅ、やはり戦闘描写は難しい・・・ こーいうのは苦手ではないけどあまり得意でもないんですよね(´・ω・`)
技術が欲しい・・・ もうちょっと小説読まないとダメかなぁ。

小説内では説明しなかったことを2つほど。
「見えない魔術を使っていた」
実はカイン、「衝撃倍加」という魔力磁場を戦闘フィールドに発生させてました。
そういう説明を会話方式で入れるつもりだったんですが、断念。ので説明が全くないので一応補足。
「またしばらく世話になる」
時間軸ではこれより過去になりますが、一時期カインはグラムの元に居候してました。
その時カインが使っていた部屋がまだ残っている、そして今でも時々カインが利用する、ということです。

話の大筋に関わってくるところもありますので、説明はこの程度で。
誰か憐崎に技術伝授を・・・(切望)


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