零華過去編・第2話
Last Update:2004.8.21

そして、今から1時間ほど前。

エルの運転する指揮車と別れ、零華達は研究所がある場所の近くにある岩場の影にいた。
入り口は広く、どの入り口が何処につながっているのかは全く想像がつかない。
さらに、入り口は岩場の中に作られていた。なるほど重要そうな施設である。

「これはまた、随分広大そうな場所だこと。探すの大変じゃない。」

任務遂行地の余りの広さに秋葉が愚痴をこぼす。
これだけの場所から目標を探すのは至難の業である。しかも下にどれだけ伸びているのかは、外見からは全く想像がつかない。

「でも、その分見つかる可能性は低い。人が少なければ尚更ね。」
「その方が隠密作業には役立つけどね・・・。」

広大な場所というのは様々な機能がそこにあると言うことで、人がいる場所も自ずと限られてくる。
そのため、人気のないところを通れば見つかる可能性は低くできる。
また、人が少なければそれだけ目撃される可能性も低くなる。
どちらも、隠密を生業とする諜報者や産業スパイにとっては動き易い条件である。
しかし、それは言い換えればセキュリティをきちっとせねば容易に外部からの侵入を許すことになり、事実こういった広くて人が少ない施設ではセキュリティを厳重に張り巡らせ、外的の侵入をなるべく少なくする工夫が施されている。

だが、彼女たちとて並の傭兵ではない。
セキュリティシステムのなんたるかを知っているし、何より秋葉はハッカーでもある。
外部からホストコンピュータに接続し、全セキュリティをダウンさせるのは造作もないことだ。

零華は、遠目から入り口を見渡した。
入り口には警備員が二人。どちらもそれほど腕の立つようなものには思えない。

「見張りが二人。油断してるので背後を取るのは容易ね。」
「よし、先ずは進入路の確保。」
「了解。」

周りは暗闇。明かりもないので気配を絶てば闇目が利かないか、音を聞かれぬ限りは見つかる可能性は0に等しい。
二人は気配を消し、入り口裏まで静かに移動した。


入り口上部。
下では警備員二人が楽しげに談笑している。
警備員のモラルがこんなにも低くて良いのか、と零華は内心あきれかえってしまった。

二人は、互いに見合い、そして頷いた。
直後、零華が警備員の背後に飛び降り、袈裟懸けを放つ。
零華の一等は胴体を切断した。即死である。
突然の自体に混乱したもう一人の警備員は慌てて銃に手をやった。
しかし、その直後に秋葉の短剣が、その警備員の急所を貫いた。

目も止まらぬ早業である。彼女たちは示し合わせたように、秋葉は入り口から内部へ侵入し、零華は遺体の処理に取りかかった。
そして、遺体処理をした後、万全を期すために、全ての入り口を解放しに動いた。

3つある入り口は、全て2人ずつの警備員が詰めていた。
残った全ての入り口で、零華は袈裟懸け→逆袈裟で確実に警備員達を仕留めた。

最後の入り口で警備員の処理をし終えたのは20分ほど経った後だった。
全ての下準備を終え、入り口から内部に入ろうとした、その刹那―――

(・・・何者!?)

懐に忍ばせていた仕込ナイフを岩場に向かって投げる。僅かに、岩場に人の気配を察知したためだ。

・・・・・・ガッ・・・・・・

暗闇に投げたナイフが岩場に突き刺さるような音。そして同時に、かすかに感じた何者かの気配も消えた。

(仕留めた・・・か?)

ただ、仕留めたのならナイフの突き刺さる音はしないはずだ。
零華は疑問を持ったが、これ以上詮索をすると見つかる可能性も出てくる。
仕方なく、零華は陰陽魔術を用いて周囲に電波障害磁場(ジャミング)を張って、中に入った。

たが、この判断が後に零華を後悔させることとなる。




どれくらい、走っただろうか―――?

目移りする景色―――といっても見てる余裕など無いのだが―――を横目に、零華達はずっと走り続けた。
目的地までの途方もない長さに、どれだけの間走ったのか、その時間さえも分からなくなってくる。
それには研究所自体が広く、迷いやすいのもあるのだが・・・
何より、赤い点までが遠い。だが、これも地図上では決して遠くはないのだ。
しかし実際に走ってみると、これが遠いのである。地図自体の縮尺が相当大きいのだろう。

これで地図がなかったら、恐らく倍の時間はかかっているはずである。


「・・・ここね。」

前方を走っていた秋葉が、足を止める。
視線の先には、壁紙と全く同じ色をしたドア。
地図の上で目的地を示す赤い点は、このドアの先にある部屋を示している。

後ろからは零華が荒い息を整えながらゆっくりと歩いてくる。

「・・・このドアの、先?」
「みたいね、地図もここを指しているし。」

言いながら秋葉は、目の前のドアへと近づいていく。
隣には、IDカードを差し込むだろうと思われる穴と、数字入力板がある。
さしずめ、IDカードを入れた後正しいパスワードを入れる、というところだろう。

「ちょっと待ってて。ロックを外すわ。」

秋葉は、ドアに近づき、取り出した回線を入力板の各所に繋いでいく。
そして、NSにそれらの回線を複雑に繋ぎ、慌ただしく指を動かし始める



――――――カチッ



ロックの外れる音が、無人の廊下に鳴り響く。
ロックの外れたことを音で確認した秋葉は、即座に回線を外して元の場所にしまう。
零華も、万全を期すために陰陽魔術を用いて部屋の周りに「防音結界」を張り巡らせた。

二人は、無言で頷きあった。


零華は、勢い良くドアを開ける。
中にいた研究者達は、入り口にいる零華を見て何事かと騒いだ。
その中の一人、研究主任と思われる人物が、突如声を上げた。

「貴様、社のものではないな?何者だ!」

至極ありふれた発言である。
予想していたとおりの反応の仕方に、零華は内心呆れてしまう。

「何者と言われても、見たとおりのもので。」
「貴様が傭兵であることは見た目で分かる。目的は何だ!」
「目的・・・ねぇ。」

聞く必要もないだろうに、と零華は思いながら部屋の中を見渡す。
そして、試作型NSを見つけると、思わず目が止まった。

(距離20、バリアフィールド無し、間に3人・・・ いけるな)

その零華の様子をみて、男は声を荒げた。

「そうか、貴様ロービルの回し者か!道理で若いと思ったが・・・」
「若い、ねぇ。」

言いながら、大きなモニターに目配せをする。
男が見たとき、そこに数分前まであった光景は、すでになかった。
モニター前にいた3人の科学者は、全て何者かによって「斬られて」いた。
それをみた男は、文字通り絶句した。

「ぎゃっ・・・」

さらに、男の後ろにいた科学者が悲鳴を上げた。
振り返ると、これも「斬られて」いる。傷の入り方は先程と全く同じで、即死である。
驚いた男は、部屋内を見渡す。
他に10人近くいたはずの研究員は全て倒され、自分しか残っていない
しかも、零華と秋葉に挟まれている。少しでも抵抗すれば即座に斬られる。
男は、戦慄した。

「若いと思って油断したら、こう言うことになる。」
「そそ。確かに若いけど、並の奴等よりは数段強いよ、私達は。」

彼女たちの言葉は、男を絶望させたと言っていい。
発される言葉に裏打ちされる実力を持っていると、直感したからだ。
1、2分程度で10人もの科学者を斬るのは、非常に素早くないと容易ではない。
しかも、逃げ出せない。何よりこれが大きかった。

男の頭からは、どこからIDカードを奪ってきたのかなどと言う疑問は、既に遠くへ飛び去っていた。

「・・・まぁ、あること教えてくれたら、助けてあげなくもないんだけどね。」
「この試作器の情報を他に流してないか、教えなよ。」

零華が刀の柄に手を起きながら歩み寄る。
男はおびえ、口走った。

「わ、私は知らない!この試作器が、こ、ここに運ばれてくる間にどういう経路をたどったのかも知らない!
この部屋にいろと上から命令を出され、それが運ばれてきたときに、この試作器の解析をしろ、と伝えられただけだ!」
「本当?」
「ほ、本当だ!二言など無い!」
「そう・・・」

零華は半歩下がり、秋葉の元へと歩いていき、何事か話し始める。
異変は、その直後に起きた。


――――グサッ――――・・・

男の顔に、不敵な笑みが浮かぶ。
しかし、男の思考は、そこでとぎれた。




「零華、大丈夫!?」
「何とか、ね・・・」

男の短剣は、零華の脇腹を突き刺していた。

秋葉は男が短剣を取り出したのにいち早く気づき、瞬間的に抵抗に出た男の背後を取り、斬り捨てた。
秋葉のその動きに何かを察した零華は初めて五感で殺気を感じ取り、上半身を捻ったのである。

「くそ、油断した・・・」

零華は苦虫を噛み潰したような顔で、脇腹に刺さった短剣を抜いた。
小柄なれど細身で、突き刺しやすいレイピアに似た短剣である。殺傷力はかなり高そうだった。
こんなもので刺されたら下手すれば即死である。 企業闘争の余波か、街でこんなものが売られるようになったのかと、秋葉は震え上がった。

「あの男がこんなものを持ってるなんて・・・」
「アルシエル社が作った刺殺用の暗殺器『ナイトストーカー』だ。こんなものをこいつが持ってるとは思わなかった。」
「確かにね、でも不測の事態は何時起こるか分からないし。」

言いながら、秋葉は精神を集中させ、小声で呪文を唱える。
青白い光と共に、零華の暗器に刺された部分の傷が、急速に塞がっていく。

「これで大丈夫ね。」
「悪いね、秋葉。」
「いいのいいの。困ったときはお互い様。」
「・・・だな。」

そう言って、零華は立ち上がろうとした。
しかし、秋葉がすかさずそれを止める。

「あ、動いちゃダメ。傷口が開くかもしれないでしょ。
それと、ここのコンピューターからホストへハッキングかけてみるから。暫く休んでて。」
「・・・できるのか?」
「わかんないよ、でも情報については何もわかんなかったからね。だから脱出に向けて体力回復させといて。」
「・・・(汗」

かなり無謀な賭け、というのは秋葉も承知の上だろう。
仕方なく、零華は近くの汚れてない床に座り込んだ。



幼きながら、剣を持つことで生き抜くという決意。

企業の中に身を置き、力で戦い抜く決意。

過去の自分と決別する決意。

そして、戦いの中で得た親友を守りきると言う、強い決意・・・




(・・・寝てしまった?)

過去の出来事が頭の中を駆けめぐる。
秋葉と会った後の記憶、剣を初めて持ったときの記憶、そして心の奥底に封じ込めたい記憶も・・・

(思えば、秋葉と会って随分経つのね・・・)

任務の時、戦闘中に助けた一人の少女。
彼女自身に助ける気持ちなど欠片もなかったのだが、向こうが助けられたと思ったらしい。
その後、数ヶ月経って零華の前に現れた一人の少女。それが助けた少女でもあり、良きパートナーにもなった、彼女なのである。

(運命というのは、皮肉なものかな。)

零華は、そう思いながらも笑みをこぼす。
秋葉は、未だ巨大なモニター前で画面とにらめっこの最中だった。
疲れがとれて、体も軽くなったみたいである。時間は3:00を過ぎていた。おもむろに立ち上がった零華は、秋葉の近くへと歩み寄る。


「どうよ、秋葉。何か分かった?」
「うーん、どうやらデータは本社の方にもあるみたいね。
ここにあるデータは消しておいたけど、流石に本社までは手が届かないわね。」
「そう・・・」
「あまり長居するとそれはそれで危ないし、そろそろ脱出しましょ。」
「分かったわ。」

そう言って、秋葉がモニターから離れた、刹那――――――


ヴィーッ、ヴィーッ、ヴィーッ、ヴィーッ、
『侵入者感知、侵入者感知。侵入者を撃破せよ。繰り返す・・・』



「・・・あーらら」
「どこかで足を捕まれたみたいね。もたもたしてると捕まるわ。」
「分かってますよ、脱出しましょ。」

二人とも、即座にNSを戦闘モードに設定する。

そして、廊下へと飛び出した。


任務中盤、目標到達から奪還まで。
途中で多分「?」な部分が出てきたと思いますがそれはまた後々の話の流れで分かります。
今はお楽しみに、ということです。ゆっくりと待ちましょう。

これもまた書き起こしに時間がかかり、後半がかなりおざなりに・・・
一部加筆修正も加えましたが、まだまだ納得行かないレベルだったり・・・
そういう意味でも、他人の書いた小説を読むって言うのは勉強になります。
といっても、勉強したことを如何に自分でアレンジするかが問題。まんまだと自分のモノになりませんからね。

小説は書いて学ぶモノ、憐崎はそう思うのですが、どうなんでしょう?


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