東の玄関口 [1] |
Last Update:2005.10.3 |
まだ朝焼けが残る街道を、カインとルーンは早足で東へと下っていく。
東と中央とを結ぶ唯一の街道は、時間が速いこともあり商人や冒険者の姿はほとんど見えない。
もっとも、S・G関係者から極力姿を隠したいカインにとっては好都合であり、またそれが狙いでもあったのだが。
「ところで、さ。」
「何だ?」
馬車を操りながら眠そうに欠伸をする商人とすれ違う。
徒歩にしてはかなりの速さで歩いているカインだが、相手は特に何も思っていないようだった。
「自分から敵の渦中に飛び込むからには、何か目的があるの?」
「内情把握。」
ルーンの問いかけにも素っ気無く答えるカイン。
「内情・・・把握?」
「・・・グラムの諜報には時間がかかる。
中央にいてもやることないし、神経尖らせてるだけだからな。」
一旦言葉を切る。
この間もカインはまったく歩みを止めない。
「それに・・・」
まぁ、確かにね と納得したような仕草を見せていたルーンは、予想もしなかった接続詞を聞いて思わずカインを振り返る。
当の本人は相変わらず歩みを止めないものの、その顔はまるで遠くを見つめているようだった。
「いや・・・ 何でもない。」
不思議そうに自分を見つめている傍らの妖精の様子にしばらく気づかなかったカインは、小さく呟いた。
それでも、決して歩みは止めず。
歩くうちに時間は流れていく。
いつしか昼になり、移動を始める人も多くなってきていて、当然街道は行きかう人で混雑し始めていた。
もともと、中央のラーディスと東の入り口、アリアディアは目と鼻の先である。
たとえ歩みの遅い人でも、1日あればたどり着くことが出来る。馬車を使えば一日で往復できてしまう。
それほどこの二つの街は近い。
そのために、早朝からハイペースで歩き続けたカインは、昼を過ぎたあたりにはアリアディアの街に入ることが出来た。
カインはアリアディアには殆ど来たことがない。
一度依頼を受けた時に訪れたことはあるが(最も、その依頼も宅配というカインにとってはなんとも面白みのないものであったが)それっきりだった。
通りにあった喫茶店のうちのひとつで簡単な昼食を済ませたカインは、街を見て回るために多くの人が行きかう大通りへと歩いていった。
しばらく街を散策し、大通りにあるベンチに座ったとき、ルーンは話しかけた。
「綺麗な町並みだねぇ、ホントに」
「あぁ。見れば見るほど、よく出来た造りだな。生活面でも軍事面でも。」
「軍事的にも・・・って、どういうこと?」
暫しの間。
「・・・街のどこにいても商店の立ち並ぶ大きな通りに道一本で出られる造り。これは道が複雑ではないという生活での利便さだな。
その大通りが横幅の広い直線路ということは戦闘を行う際にも便利であるし、防衛を行う際には防衛側が有利になるよう、侵攻側から死角になるような構造をする脇道が非常に多い。
これが軍事での利便さだ。
この街は時の王が計画させて作らせた軍事都市だと聞いていたが・・・ なるほどよく出来ている。」
「あのさぁ、カイン・・・
私はそんなこと聞いてないよ。ただ綺麗な町並みだねって事が言いたかっただけなんですけどー」
「・・・そうか。」
カインの語りが一段落したところで、ルーンが悪態をつく。
しかし、肝心のカインはあまり気に留めていないようにみえていた。
(まー、いつものことだもんね)
長年カインの元にいるパートナーは、そんなカインのそぶりも気に留めず、日も暮れそうだからさっさと宿を取ろうとカインをせかした。
夜。
冒険者の集う宿泊施設(ギルド)に、カインはいた。
結局宿は取れず、毎度の事ながらギルドで一晩を明かすことになった。
尤も、カインにとっては『そのほうが気楽でいい』らしいが。
「大量の・・・傭兵流入?」
「あぁ。相当な数のS・G所属の傭兵が東へ流れてるぜ。
既に東の各地でそいつらによる事件とかが数多く起こってやがる。」
ギルドの酒場は冒険者にとっては貴重な情報源である。
世界各地の情報が、こういった冒険者の集う酒場にいち早くもたらされるのは、この時代に生きる人にとっては周知の事実であった。
それゆえ、ギルドというものは本来庶民にも開け放たれているものであった。それが、現在S・Gの登場で変わりつつある。
「何でまた、そんな物騒な奴らが大量に流れてきてんだ?」
「わからねぇ。ただあいつら何かをしでかそうとしてる、っつー良くない噂は流れてる。
大規模な魔剣士狩りか、魔法剣集めか、はたまた戦争でもおっぱじめるのか・・・」
「なんか、ありえないようなかなり大げさな噂が流れてるみたいだな・・・」
「それほど、奴らの動きが不穏って事だ。
こういう不穏な動きは変な噂を煽っちまう傾向にあるしな・・・」
酒場のマスターとの会話が一旦途切れるとカインは難しい顔をして黙り込んでしまった。
暫くその様子を見ていたマスターが、再び話しかける。
「兄ちゃん、若いが魔剣士かい?」
「あぁ。一応双剣の魔剣士だ。
東をぶらり紀行しようと思ってたんだが・・・ 今の噂を聞いてるとかなり危険そうだな」
「まぁな。悪いことは言わねぇ。暫くはここに滞在して様子を見たらどうだ?」
「そうするよ。」
言いながら、カインは軽く頷いてみせる。
「・・・ところで、この状況を東の国家はどう見てるんだ?」
「あぁ、お国の偉いさんなら事情説明をさせようと必死だよ。
各地のS・G所属の傭兵の不祥事とか変な噂が流れてるのを重く見たのかはわからんが、ギルド上部に国が掛け合ってると聞いた。
しかも、ギルド側がのらりくらりと言及を避けてるせいで険悪なことになってるらしいぜ。」
「となると、ますます今すぐ東に入るのは危険だな・・・」
「国家絡みでややこしいことが起こってる状態だからな。
下手に命失いたくないなら、しばらくはアリアディアに滞在するのが懸命だぞ。」
「あぁ、そうするよ。」
情報提供ありがとう、とマスターに言い、カインは酒場を離れた。
特に何かをする当てのないカインは、部屋で留守番させていたルーンに声をかけ、夜の街を散策するかと聞いた。
暇を持て余していたルーンは喜んでカインの誘いに乗った。
二人は、暫く夜の街をゆっくりと適当に談笑しながら歩いていた。
「で、外に連れ出したって事は何か言いたいことでもあるわけ?」
暫くしたところで、それとなくルーンが切り出す。
夜といっても大通りにはまだ人が多い。大通りの喧騒のおかげで、第三者に聞かれる心配はあまりなかった。
「東の状況はかなり複雑かつ悪化してるみたいだ。
戦争・魔剣士狩りとかのな噂、国家レベルでのいざこざ、しかも絶えないS・G所属傭兵の不祥事・・・」
「・・・本当に悪いことしか聞かないね、S・Gは。」
ルーンはため息をつく。
「治安の影響もあって暫くはここを動かないほうが良いとマスターに薦められた。」
「それがベストなんじゃないかな?
ここなら何か起こってもすぐに中央に戻れるし、情報も入ってくるし、治安も良いみたいだし。
何より、わざわざ騒乱のど真ん中に突っ込んでいかなくていいもんねぇ。」
「・・・理解が良くて助かるよ。」
まぁね、とルーンは呟く。
「そういうわけだ。
何か中に入る用事が起きるか、情勢が落ち着くまでは暫くこの街に滞在する。」
「ん、私は別にかまわないよ?
何を今更、私にこういう許可取る必要があると思ってるのよ♪」
「まぁ・・・そうだな」
このとき、ゆっくりと話すカインの顔が、少し笑っていることにルーンは気づいた。
「ほらほら、夜の街を散策するんじゃなかったの?さっさといこうよ♪」
「・・・あぁ、そうだな」
さっさと行こうと急かすルーンを押さえ、カインは歩みを止めていた足をゆっくりと動かし始めた。
あとがき
10ヶ月ぶりにこんにちは(殴
長すぎる雌伏の時間を経て、第2章ついにアップ開始でございます。
当初の予定からずいぶん離れた方向に物語の方向性が変わっております。
まぁ、前の物語はもう私でも思い出しても駄目だなぁと思うほどの無茶っぽさでしたが・・・
現在の物語の進行予定だと30章を超えてしまいそうな勢い。うはっ、どうしよう私(´・ω・`)
補足説明をひとつだけ。
S・Gとは、ソルジャーズ・ギルドの英語名略称です。それだけはご理解くださいませ。
話は次回以降、アリアディアを含めた東方大陸編の本筋に入っていきます。まぁ今回はその序章という感じですかね。
リハビリを兼ねて書いたのですが、思ってたより筆の進みが早かったのはうれしいところ。
途中でだれたりしないようがんばって書いていきます、よろしくです。
目指せ完結ヽ(`Д´)ノ。